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名古屋地方裁判所 昭和45年(行ウ)9号 判決

主文

原告の第一次的訴を却下する。

原告の第二次的請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は第一次的に被告が昭和四四年九月二四日付海政第一六六四号をもつてなした原告が昭和四三年一月二二日提出の国有財産買受申込の拒否処分を取消す。第二次的に被告は別紙目録記載の各土地を農地法第八〇条第二項の規定により原告に売払う義務のあることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、請求の原因として、

一、別紙目録記載の土地はもと原告の所有であつたところ昭和二二年一二月二日自作農創設特別措置法第三条により国に買収されたが今日まで売渡処分のなされないまま農地法第七八条により国に管理されている。

二、被告は昭和二八年一二月一六日京都農地局長名をもつて右各土地を稲沢都市計画稲沢土地区画整理事業の区域に編入することを認許した。

三、右稲沢土地区画整理事業は旧都市計画法第一三条第一項但書の規定により区画整理事業を急施する必要があるとして建設大臣の命により施行する事業であつて現行都市計画法第七条にいう市街化区域の指定に該当するものであるが、都市計画法にもとづき施行される土地区画整理事業は宅地としての土地の利用増進をはかることを目的とするものであつて土地の農業上の利用の増進を目的とするものではない。

四、右の結果右稲沢土地区画整理事業施行者稲沢市長(右各土地編入当時は町長)は右各土地に対し農地としての許容量たる二割を越える二割四分余の減歩率を定めた仮換地指定をなし、この減歩負担部分の土地は広大道路、公園、仮換地保留地等農耕作業とは何ら関係のない都市施設の用途に転用せられ、あるいはこれら都市施設築造の工費代替地(換地保留地)として宅地に転用されており、また右各土地の使用収益可能部分たる七割六分の部分には昭和三五年頃より六鹿実が一八・八平方米の建物を有している。(建築はその被相続人六鹿代三郎がこれをなした)従つて本件土地の約二割五分にあたる部分が農地以外の用途に転用されている状況にあるのに農地保護の責に任ずる被告は農地としての換地減歩許容量たる二割以内に減歩を縮少する措置も右各土地の前記稲沢土地区画整理事業の区域編入認許の取消の措置も講ずることなく放置してきたものであつて、今日までの右稲沢土地区画整理事業の施行状況を勘案すると、もはや右各土地を右稲沢土地区画整理事業施行区域より除外することも減歩負担を二割以内とすることも不可能である。

五、以上のとおりの経緯および状況からすると、被告が右各土地を管理するのは自作農創設特別措置法の買収目的に反し違法なものであり、自作農地として農業に精進させる大目的を持つ右各土地を稲沢土地区画整理事業の区域に編入することを被告が認許した処分は右各土地につき農地法第八〇条第一項にいう「自作農の創設又は土地の農業上の利用の増進の目的に供しないことを相当」と被告が認定したものである。また仮にそうでないとしても右各土地の前記のごとき状況を勘案すれば右各土地につき被告が右農地法第八〇条の認定をしたと看做す外はない。(そうでないとした場合右各土地は農地法上農地であることは明白である。従つて右各土地につき二割四分余の減歩負担を賦課した右仮換地処分は違法無効なものであることも土地改良法第五三条第一項により明白である。)

六、そこで、右各土地は昭和四一年三月一一日付四一、農地B第一二二三号(農)農林省農地局長通達第二項に該当するので、原告は右各土地の売払いを受けるため昭和四三年一月二三日右各土地の国有財産買受申込書を被告に提出したところ、被告は昭和四四年九月二四日付をもつて右各土地の状況は農地法施行令第一六条第四号に該当しないとして右売払いを拒否した。

七、原告は右拒否処分は不当であるとして昭和四四年一一月二二日被告に行政不服審査法による異議申立をしたところ被告は同年一二月一二日付で原告の右国有財産買受申込の拒否は一般行政事務処理上の回答文書であつて行政処分ではないとして右異議申立を却下したので第一次的に右被告の右各土地売払い拒否処分の取消を、第二次的に被告は右各土地を農地法第八〇条第二項の規定により原告に売払う義務のあることの確認を求める。

八、仮に右一、二、三の各事実が農地法第八〇条の認定処分と認められず、又右二、三、四の各事実が右農林省農地局長通達に右各土地が該当しないものとしても稲沢土地区画整理事業により事実上公園、道路等に右各土地の約二割四分の部分が転用されているのでこの転用部分は当然農地法第八〇条第二項の規定による売払をすべきものである。

と述べ、被告の本案前の申立に対し、

農地法第七八条により被告の管理する買収農地は自作農を創設する等の公共の目的に供するため一時的に管理するものであつて、右買収農地の同法第八〇条による売払いは右の公共用財産としての性格を剥奪する作用を包含するものであるから単なる私法上の売買ではなく行政処分をも含むものである。従つて原告の本件買受申込を拒否した被告の措置も行政処分である。かりにそうでないとしても本訴は原告の同法第八〇条第二項にもとづく義務履行の請求に対する被告の拒否措置の撤回是正を求めるものであるから適法である。

その他被告の主張事実中原告の主張に反する部分を否認する。

と述べた。

被告は本案前の申立として本件訴をいずれも却下する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、理由として、

一、本件取消訴訟は訴の対象を欠くから不適法として却下さるべきである。即ち農地法第七八条第一項に掲げる土地等は国有財産法第三条に規定する普通財産であるところ、一般に普通財産の管理処分権限は国有財産法の原則からすると大蔵大臣にあるが右の土地等についてはその例外として農地法第七八条第一項および同法第八〇条第一項によつてその管理処分権を被告農林大臣に賦与したものであるに止る。(国有財産法第一条、第六条参照)従つて農地法第八〇条第二項の売払いは同条第一項の認定を前提とする国有財産法上の普通財産の売払いと同様であつて、その性質は被告農林大臣と旧所有者との間で対等の立場で行なう私法上の売買に外ならず、被告が行政権の優越的意思に基づき公権力の行使としてなす行政処分ではないからかりに被告が原告の本件各土地の買受申込に対し拒否の回答をなしたとしても、これは行政処分と解する余地がなく、結局国有財産買受申込の拒否処分の取消を求める本訴は取消の対象たる行政処分を欠き不適法で却下を免れない。

二、本件義務確認の訴は権利保護の資格を欠くから不適法として却下されるべきである。即ち(一)行政事件訴訟法第三条は法定抗告訴訟として処分の取消しの訴、裁決取消の訴、無効等確認の訴、不作為の違法確認の訴という四つの訴訟類型をあげているが、本件義務確認の訴は右法定抗告訴訟のいずれにも該当しないからいわゆる無名抗告訴訟として提起されたものと解せられるところ、行政事件訴訟法第三条の法定抗告訴訟の共通の特質はいずれも既になされた行政庁の形式的個別的な一次的判断権の行使を前提として、その適否を事後的に争う事後審査性にあるところから行政事件訴訟法は右の事後審査性をもつて抗告訴訟の共通的特質としているものと解せられる。従つて無名抗告訴訟もまた抗告訴訟として右の特質を満すものであることを要し本件の如く事後審査の性質を有しない処分義務確認訴訟は無名抗告訴訟としても許されないから不適法である。(二)また農地法第八〇条第二項の売払は同条第一項の認定が実体法上の前提要件であるところ、請求の原因たる事実中に右の認定のあつた旨の主張はなく、又右認定の事実はないから原告は実体法上認められない権利を主張しているものであつてこの点からも権利保護の資格を欠き不適法といわざるを得ない。

と述べ、本案につき原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、答弁として請求の原因たる事実一の点を認め、同二の点を争い、同四のうち本件各土地の仮換地が指定された点、右仮換地上に六鹿代三郎が昭和三五年一〇月頃倉庫を建築し、それを六鹿実が使用している点を認め、その余の点を争い、同六のうち原告が昭和四三年一月二三日国有財産買受申込書を提出した点、被告が昭和四四年九月二四日右買受申込に対し農地法施行令第一六条第四号に該当しないことを理由に売払いできない旨回答した点を認め、その余の点を争い、同七のうち原告が昭和四四年一一月二二日行政不服審査法による異議申立をした点、被告が昭和四四年一二月一二日付で(行政不服審査法第六条所定の要件も欠く不適法なものとして)これを却下した点を認め、その余の点を争い、被告の主張として

一、本件各土地は昭和二二年一二月二日旧自作農創設特別措置法第三条の規定により原告から買収したものであるが(昭和二五年三月三〇日、同年八月二〇日各買収登記済)昭和二三年六月一一日同法施行規則第七条の二の三の規定にもとづく売渡保留地に指定されたため、同法第一二条第二項の規定にもとづく買収当時の耕作者平手久尚、佐藤正止に自作農創設特別措置法第四六条にもとづく国有農地等の一時貸付に関する規則(昭和二三年農林省令第一〇二号)および自作農創設特別措置特別会計国有財産管理規定(昭和二七年農林省訓令第八五号)第七条の規定により貸付けを継続していたが昭和四三年一月一〇日および同年六月一日付で借受者の申請によりそれぞれ解約したものである。

二、右各土地は稲沢都市計画稲沢土地区画整理事業地区内に所在するが同事業地区内への編入について京都農地事務局長が認許した事実も被告が認許した事実もなく、かりに右各認許の事実があつたとしても土地区画整理事業地区編入によつて当該土地が当然に農地性を失うものではないから右認許の事実をもつて直ちに農地法第八〇条第一項の認定があつたものとすることはできない。

三、そして農地法第八〇条第一項は、農林大臣は第七八条第一項の規定により管理する土地……について政令で定めるところにより自作農の創設又は土地の農業上の利用の増進の目的に供しないことを相当と認めたときは、省令で定めるところにより売払い……することができる。と定め、農地法施行令第一六条は、農林大臣は左に掲げる土地等に限り法第八〇条第一項の認定をすることができる。として第一号ないし第四号に該当する土地等を掲げているのであるから被告は現に右施行令第一六条各号に該当する土地等についてのみ農地法第八〇条第一項の認定をすることができる権限を有し、これら各号に該当しない土地等については認定することができないのである。農地法施行法第五条によると本件各土地は農地法第九条の規定により買収したものと看做される土地であるから右各土地については農地法施行令第一六条第四号に該当しない限り農地法第八〇条第一項の認定および同条第二項の売払いはできないものであるが右農地法施行令第一六条第四号は公用公共用又は国民生活の安全上必要な施設の用に供する緊急の必要があり且つその用に供されることが確実な土地等と規定し自作農創設等の農地法の目的の達成を差し控えても、なおそれを是認しうる転用の用途を限定し、さらにその用途に供する緊急の必要性があり且つ転用の実現性が確実である場合にのみ農林大臣は右認定をすることができる。とするもので、右各土地の一部を六鹿実が倉庫用地として不法使用していることをもつて直ちに右各土地のすべてが農地法第一六条第四号に該当すると認めることはできない。

四、そこで原告の右各土地の買受申込に対し被告は農地法第八〇条の売払いにあたり遵守すべき職責を定めた右各法条に照らし売払いができない旨文書回答したものである。そして農地法第八〇条の売払いは私法行為であるから、かりに被告が右各法条に違反したとしても国の行政組織法上、国有財産管理処分権者としての責任が問擬されるに止まり原告の権利侵害や原告に対する義務違反の生ずる余地はないものである。

と述べた。

証拠(省略)

(別紙)

目録

愛知県稲沢市小池正明寺町小田井畑一八四八の三

一、畑     一二八平方米

右同所一八五八の一

一、畑     二〇一平方米

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